遺言に関する裁判例

【裁判例】 自筆証言遺言の効力が争われた事案 遺言書作成前後の状況を詳細に認定した上で,遺言者の病気の経過や症状から遺言書作成当時遺言者にはその内容及び効果を理解して遺言書を書く能力がなかったとして遺言が無効であることを確認した事例 東京地方裁判所 平成5年2月25日
遺言能力を欠くとして,自筆証書遺言が無効とされた事例です。 1 事案の概要(裁判所の判断) (1)遺言者は,一族とともに企業グループを経営していた事業家であった。 平成元年12月19日,遺言者は,当時の禁治産宣告を受け,弁護士が後見人に選任された。 平成2年8月30日,死亡した。 本件遺言は,昭和63年3月22日付と平成元年8月3日付のそれぞれ自筆遺言証書である。 (2)昭和62年8月4日の医師の診察時において,遺言者はどれが眼鏡かと問われても答えられず,手を挙げるようにとの簡単な指示にも反応できなかったことから,遺言者がウェルニツケ失語症だったのか否かはさておいても,その当時,単に言葉を発することができないにとどまらず,ごく簡単な事柄の理解能力すら喪失していたことが窺われる(言葉を発するこどができないだけなら,眼鏡を指差したり,手を挙げたりできるはずである。)。 遺言者は自分の名前を書けたとのことであるが,症状か相当程度進行した場合でも,一般に自分の名前を書く能力は維持されることが多いから,名前を書くことができた事実に重きを置くことはできない。 同月10日に診察した医師も同様に,遺言者の理解障害の回復は困難である可能性があると診断したのであった。 被告は,甲大学付属病院のカルテ中に「かなり文章を言えるようになってきた。」との記載や,甲教授の発言として「会話ができるようになったんだね。」との記載があると指摘した。 しかし,前者の記載は患者の訴えを書き留める欄の記載であるが,当時の状況からすると,遺言者自身の発言ではなく,付添者の発言を記載したのではないかと推測されるし,後者の記載はその3日前にジャルゴン( 語よりも意味不明の程度が高い。)があること等から考えると,患者の家族を激励するために医師が発言した可能性も捨て切れないし,また,これらの記載はもっぱら言葉を発したかどうかに関するものであって,遺言者の理能力の存在を証するものとしては不十分である。 また,被告は,遺言者が問いに対してうなずいたことがあったことを理解能力があったことの証拠としてあげているが,うなずくことと理解とは別の問題であり,重症失語症患者はどのような問いにもうなずくことが多いことからも,十分な証拠とは言えない。 このように遺言者が甲大付属病院に入院していた当時は単に失語症状が存在していただけではなく,十分な理解能力や判断能力かあったと認めることはできない。 さらに家裁調査官が来訪した平成1年9月14日(第一遺言書作成時の昭和63年3月22日及び第二遺言書作成時の平成1年8月3日のいずれよりも後である。)においても,全く言葉を発することができず,失禁したことから考えて,遺言者の症状はほとんど改善していなかったものと推認される。 被告は,遺言者のような患者が特に緊張した状況下におかれた場合には,失禁等の反応を示すことはあり得ることであるから,これを以て意思能力についての消極的材料とするのは相当でないと指摘するが,特別の緊張下にあったことは否定できないとしても,いずれにしろ家裁調査官に対して前認定のとおりの異常反応を示した遺言者が、自分の全財産の好内容を明確にする遺言書作成を自らの意思でできたとは到底考えられない。 【掲載誌】  家庭裁判月報46巻5号50頁 判例時報1476号134頁
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