借地・借家の地代、賃料に関するQA

賃貸借当事者間の特殊事情の変更を理由として借地借家法32条1項に基づく建物賃料増額請求がされた場合の相当賃料額について判断した事例 東京高等裁判所 平成18年11月30日
地代が相場よりも安く定められた経緯として、賃貸人である会社の代表者と賃借人の会社の代表者が親子関係であったという場合に、当該建物が第三者に売却されたことによりそのような特殊事情が解消されたという場合は、賃料増額請求が認められ得るということを判断したものです。 【裁判所が認定した事実】 1 本件は,借地借家法32条1項に基づき賃料増額請求をした原告が,賃借人である被告らとの間で,それぞれの賃貸部分の賃料額の確認を求めた事案である。 2 前提事実 (1)別紙物件目録記載の一棟の建物(以下「本件建物」という。)は,株式会社A(以下「A」という。)が,平成4年4月14日,代表者Bの名義で所有権保存登記をしてこれを所有していた建物である (2)Aは,平成12年10月1日,被告有限会社Y1(以下「被告Y1社」という。)に対し,別紙物件目録記載の専有部分の建物の地下1階部分379.89平方メートルのうち別紙図面@の赤線で囲ま れた範囲318平方メートル(以下「地下1階賃貸部分」という。),1階部分352.1平方メートルのうち別紙図面Aの赤線で囲まれた範囲325.5平方メートル(以下「1階賃貸部分」という。)を,使 用目的をパチンコ店の店舗,賃料を月額145万9020円,共益費を月額38万9980円と定めて貸し渡した。なお,平成13年6月,賃料の算定ミスが判明したため,賃料額は契約締結時に遡って月 額146万5830円と訂正された。   Aの代表者Bと被告Y1社の代表者Cは,親子である。 (3)Aは,同じく平成12年10月1日,被告有限会社Y2(以下「被告Y2社」という。)に対し,別紙物件目録記載の専有部分の建物の2階部分352.93平方メートルのうち別紙図面Cの赤線で囲ま れた範囲27.4平方メートル(以下「2階賃貸部分」という。)を,使用目的をパチンコ店の景品交換所,賃料を月額5万8100円,共益費を月額1万6600円と定めて貸し渡した(以下,Aと被告Y1 社間の賃貸借と併せて「本件賃貸借」という。)。    被告Y2社は,被告Y1社の経営するパチンコ店の景品交換所を経営する会社である。 (4)Aは,平成13年8月1日,本件建物を,D・リアルエステート株式会社(以下「D社」という。)に売却し,これによりD社は本件賃貸借における賃貸人の地位を承継した。 (5)D社は,平成13年8月1日,被告Y1社に対し,新たに別紙物件目録記載の専有部分の建物の4階部分348.73平方メートルのうち24.4平方メートルを賃貸することとし,これに伴い,従前の賃貸部分と併せて賃料を月額153万0830円,共益費を月額41万4980円とする旨合意した。次いで,D社は,平成13年10月5日,被告Y1社に対し,4階部分のうち更に27.8平方メートルを貸増しすることとし(これにより4階の賃貸部分は別紙図面Bの赤線で囲まれた範囲52.2平方メートルとなった。以下この賃貸部分を「4階賃貸部分」という。なお,上記の全ての賃貸部分を一括していうときは,以下「本件各賃貸部分」という。),これに伴い,従前の賃貸部分と併せて賃料を月額159万5830円,共益費を月額43万9980円とする旨合意した。 (6)D社は,平成15年6月2日,本件建物を原告に売却し,これにより原告は本件賃貸借における賃貸人の地位を承継した。 (7)原告は,平成15年9月4日ころ,被告らに対し,それぞれの賃貸部分の賃料を同年10月1日から増額する旨の意思表示をした。 【裁判所の判断】 (1)甲11(23頁)によれば,平成12年10月1日時点における本件各賃貸部分の積算賃料及び比準賃料(月額)は,それぞれ,地下1階賃貸部分(318平方メートル。96.2坪)につき158万円( 坪1万6424円)及び200万円(坪2万0790円),1階賃貸部分(325.5平方メートル。98.46坪)につき270万円(坪2万7422円)及び342万円(坪3万4735円),2階賃貸部分(27.4 平方メートル。8.29坪)につき13万7000円(坪1万6526円)及び17万3000円(坪2万0869円),4階賃貸部分(52.2平方メートル。15.79坪)につき17万2000円(坪1万0893円)  及び21万9000円(坪1万3870円)と試算されることが認められる。      また,甲24(別紙)によれば,本件建物を賃借している被告ら以外の賃借人との間で定められた賃料(共益費込み。ただし,平成17年9月現在のもの)は,2階部分につき坪1万9989円,3階部  分につき坪1万5000円,4階部分につき坪1万3201円,5階部分につき坪1万2500円,6階部分につき坪1万3074円,7階部分につき坪1万3098円,8階部分につき坪1万3192円であるこ とが認められる。   他方で,本件各賃貸部分の約定賃料(月額)が,平成12年10月1日締結に係る地下1階賃貸部分及び1階賃貸部分につき合計146万5830円(坪7530円),共益費込みで合計185万 5 810円(坪9534円)であり,同じく2階賃貸部分が5万8100円(坪7010円),共益費込みで7万4700円(坪9012円)であることは,前提事実のとおりであって,前記試算賃料及び他の賃借人 の賃料と比べて著しく低額であることは明らかである。賃貸人の地位がD社に移転した平成13年8月1日とその後の同年10月5日に被告Y1社が貸増しを受けた4階賃貸部分(合計52.2平方メート ル)の賃料も従前の賃料水準に準じて定められていることがその賃料額から窺われるから,同様に著しく低額に定められたものということができる。    そして,本件各賃貸部分の賃料がこのように低額に定められた理由は,他に特段の事情のない本件においては,前提事実(2),(3)のような特殊事情によるものと認められる。 (2)その特殊事情が本件建物の譲渡に伴う賃借人の地位の移転により消滅したことは,前提事実から明らかであるところ,借地借家法32条1項は,従前の賃料が客観的に不相当となったときに,公平の  観念から,改定を求める当事者の一方的意思表示により,従前の賃料を将来に向かって客観的に相当な金額に改定することを認める規定であり,その趣旨からすれば,同項が定める事情の変更は例  示に過ぎず,前記のような特殊事情の変更であっても,賃料増減額請求をするための要件となり得るものと解すべきである。        また,現行の賃料が定められてから相当期間が経過したことは,賃料増減額請求権発生の独立の要件ではなく,不相当性判断の事情として斟酌すれば足りるものというべきである。        なお,被告は,原告の賃料増額請求の意思表示には金額が明示されていないと主張するが,甲20によれば,具体的な金額を明示してその意思表示をしたことは明らかである。 (3)以上によれば,原告の賃料増額請求の要件は具備しているものということができる。 【掲載誌】  判例タイムズ1257号314頁
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