※設例は、あくまでも公開された裁判例などをもとにした仮定のものであり、登場人物や事件の内容は、実際の事件とは一切関係ありません。
また、実際の相談が必ずこのように進むというわけでもありません。
相談を初めてしようと思っている方などに対して、あくまでも、弁護士がどんなことを尋ねるのかとなどについてイメージとしてお伝えしているものです。

※内容は、不定期・随時に更新しています。


日野都美子さんの交通事故相談3

都美子さんと半蔵弁護士は話しを続けました。
半蔵弁護士

「次に逸失利益ですが・・・」

都美子さん

「みとな損害保険の『損害計算書』には,喪失率5パーセント・平均賃金センサス・金額45万円とだけしか記載がなくて,これでは根拠がよく分からないのですが」

逸失利益は,治療を施したにも拘わらず残ってしまった後遺症による障害について,それによって働けなくなったであろう率を算定して,失われた利益を損害として考えるというものです。都美子さんは今回の交通事故で右肩に痛みが残ったということで,自賠責保険から14級9号(局部に神経症状を残すもの)という後遺症の等級の認定を受けていました。
半蔵弁護士

「14級9号の後遺症での労働能力喪失率が5パーセントとされているので,みなと損害保険がこの率を用いたこと自体はあながち不当ではありません。そして,逸失利益の場合も,休業損害と同じく,主婦の場合には賃金センサスを用いて収入の基礎とすることにしています。」

都美子さん

「そうすると,逸失利益に関してはこの金額(45万円)であきらめざるを得ないのでしょうか?」

半蔵弁護士

「いえ,問題は逸失利益を計算する期間だと思います。この損害計算書の前提だと,おそらく,みなと損害保険は,逸失利益が生じる期間を3年間くらいとしているようです。」

逸失利益の算定期間は,原則として67歳までということになっているのですが,他覚症状のない神経症状藻などの場合,いずれはそのような症状も軽快するという考え方のもとに,算定期間を5年間~10年間に区切るということもあります。「この辺りの算定期間をどのように考えるかは,保険会社との交渉になります。」と半蔵弁護士は付け加えました。
都美子さん

「よく分かりました。後遺症慰謝料というのはどのようなものなのですか?」

半蔵弁護士

「後遺症が生じたことによる慰謝料です。入通院慰謝料は,入院したり通院したりしたことに対する苦痛を慰謝するためのものですが,後遺症慰謝料は,後遺症が生じたことを慰謝するためのものということで区別されています。」

都美子さん

「40万円というみなと損害保険の提案は正しいのでしょうか?」 

半蔵弁護士

「これについても,先ほどの赤い本の基準では,後遺症の等級が14級の場合は110万円となっていますのでこの金額を請求すべきだと思います。」

都美子さん

「はい。」

各損害についての概要を話し終えた後,半蔵弁護士たちは過失相殺について検討することにしました。
都美子さん

「みなと損害保険からは,私にも落ち度があったということでその分として40パーセントを損害額から差し引くと言われています。」

半蔵弁護士

「事故の状況はどのようなものだったのですか?」

事故は,都美子さんが自転車で相手方が自動車というものでした。事故が起こった場所は,どちらの道路にも信号機や一時停止の規制のない,同じような幅員の交差点ということでした。交差点の見通しは悪くなく,都美子さんの自転車からも相手方の自動車からもお互いのことはよく見えていたようです。交通量はそれほど多くはないということです。
半蔵弁護士

「交差点に差し掛かる際には相手の自動車が来ていることは分かったのですか?」

都美子さん

「はい,でも,自動車の方が停まってくれるかなと思ったものですから・・・」

半蔵弁護士

「自転車の速度は緩めながら交差点に入ったのですか?」

都美子さん

「はい,ブレーキは掛けながら入ったんですけど,あっと思ったらもう自動車がすぐ近くに来ていて・・・」

過失相殺については,東京地裁の交通部が編集した過失相殺の基準表があり,裁判実務ではその基準表に依拠して判断しています。半蔵弁護士が都美子さんから詳しく事故の状況を聞いたところ,今回の事故のケースで都美子さんに認められる過失としては20パーセント程度であるようでした。
都美子さん

「半蔵弁護士さんのお話を聞いていると,みなと損害保険は,あらゆる点で損害賠償額を低くしてきているようですね。許せません。」

半蔵弁護士

「そうですね,正当な損害賠償金額を得られるようしっかり交渉しなければなりません。」

都美子さん

「今後,どのようにすればよいのでしょうか?」

半蔵弁護士

「色々な方法がありますが,今日の相談結果を受けてご自分で再度交渉してみるという方法が一番コストもかかりません。自分で交渉するのは難しいという場合には,弁護士を代理人として任意の交渉をするというやり方もあります。また,任意の交渉でもまとまらない場合には,交通事故紛争処理センター(紛セ)や日弁連の交通事故相談センターに斡旋の申立てをしたりすることもできます。また,最終的には,訴訟という形で裁判所の判断を求めることもできます。」

都美子さん

「交通事故紛争処理センターというのはなんですか?」

半蔵弁護士

「民間の財団法人ですが,公正中立的な立場から,交通事故に関する争いについて和解のあっせんやあっせん案を示してくれます。ほとんどの保険会社は,紛セの提示した斡旋案に従う義務があります。被害者側は斡旋案に従う義務はありませんが,中立的な立場からの一定の結論ですので,斡旋案を蹴って,さらに裁判で争うべきかどうかは検討が必要でしょうね。」

都美子さん

「そうですか,手続のことはお任せしたいと思うのですが,私,保険会社の人と話をするのはちょっと気が滅入るので,半蔵弁護士さんにお願いしたいと思います。」

半蔵弁護士

「分かりました。」

それから,半蔵弁護士は,都美子さんからの委任を受けて,保険会社と交渉することになりました。 半蔵弁護士が計算したところ,都美子さんの損害賠償額は700万円ほどになりました。ここから既払金や過失相殺をしたとしても,およそ500万円の請求金額となり,みなと損害保険が当初提示していた120万2000円とは大幅な開きが出ました。 しかし,半蔵弁護士とみなと損害保険との交渉の結果,都美子さんも満足できる金額での和解がまとまることとなりました。

日野都美子さんの交通事故相談 その1 日野都美子さんの交通事故相談 その2