窃盗罪に関するQA

すりの未遂について無罪とされた事例 東京地方裁判所 平成24年4月19日
1 事案の概要 検察官の公訴事実は,被告人が,埼京線通勤快速電車内において,A(被害者)が左腕に掛けていたトートバッグ内に左手を差し入れ,金品を抜き取り窃取しようとしたが,警察官に発見されて逮捕されたため,その目的を遂げなかったというものです。 なお,被告人には電車内でのスリ行為による前科が一つあったということです。 2 裁判所の判断 本件で被害者とされるAは被告人の行為を見ていませんので,直接的な証拠としては,被害者のバッグ内に左手首を差し入れている被告人の姿を現認したという警察官の証言しかありませんでしたが,裁判所は次のような理由から,被告人について無罪を言い渡しました。 なお,当該警察官は,被告人についてスリ眼(物色などのすり特有とされる行為),点検行為(周囲を警戒する挙動)をしていたことを見つけたことから,もともと被告人をマークしていたということです。 (1) 犯行状況に関する重要な証言の食い違い 当該警察官は,「被告人がバッグに左手を手首まで入れたのを被告人の左後ろから見た私は,両手で被告人の左手首とバッグの後ろ側の口元を同時につかみ,『スリだ』と言った。すると被告人は,左手をすごい力でバッグから引き抜いた。私は,被告人に逃げられないように,右手で被告人の左手首をつかみ,更に被害者のバッグの持ち手部分を左手でつかんだ。一緒に捜査に当たっていた警察官は,被告人の左手首がバッグの中に入っているところを見ていないと思う。被害者にはバッグと被告人の手を同時につかんでいる様子を見せたと思う」などと証言していました。 これに対し,一緒に捜査をしていた警察官は,「新宿駅で降車しようとしたところ,当該警察官が『スリだ』と大声を出したので,すぐに車内に戻り,当該警察官と被告人の近くに行った。そのとき,当該警察官は被告人の左手を両手でつかんでいたが,被告人の左手はバッグには入っておらず,被告人の左手の真下の触れるか触れないかの位置にバッグがあった。その後,被告人の左手がバッグから離れていき,その手を当該警察官が片手でつかんでいた」と証言していました。 裁判所は,当該警察官が,被告人がバッグにいれた左手を掴んだところすごい力で被告人がこれを引き抜いたというのなら,一緒に捜査をしていた警察官の証言とは符合しないとして,これを重要な食い違いと指摘しています。 被告人が強い力で手を引き抜いたとすると,両手でつかまれた状態のまま,バッグのすぐ上のところで左手を止めておいたというのは不自然であり,当該警察官はバッグに入っていない状態の被告人の左手を両手でつかんだ可能性を否定することができないとしました。 なお,車内には防犯カメラが設置されておりその映像もあったようですが,被告人が左手を強い力で引き抜いている様子など被告人の左手が大きく動いている様子は確認できないとされています。 (2)客観証拠との食い違い また,もともと被告人をマークしていた警察官が証言した以前の被告人の行動に関し,被告人のパスモに記録がなく,客観証拠と合致していないとされました。 (3)なお,弁護人は,当該警察官の証言のうち,本件前後における被告人の行動(スリ眼や点検行為)などについても信用性がないとも主張しましたが,被告人の行動に関する部分は,被告人の真意は別にして,スリ係の警察官としての経験等に基づく評価が含まれているのであり,直ちにその証言の信用性に影響するものとはいえないとされています。
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