※設例は、あくまでも公開された裁判例などをもとにした仮定のものであり、登場人物や事件の内容は、実際の事件とは一切関係ありません。
また、実際の相談が必ずこのように進むというわけでもありません。
相談を初めてしようと思っている方などに対して、あくまでも、弁護士がどんなことを尋ねるのかとなどについてイメージとしてお伝えしているものです。

※内容は、不定期・随時に更新しています。


猫神家の相続トラブル〜その1

猫神太郎さんと次郎さんのお父さんである佐平さんが83歳の天寿を全うしたのはちょうど半年前のことでした。佐平さんの妻、つまり兄弟のお母さんは既に佐平さんよりも先に亡くなっていて、兄弟は、長男の太郎さんと次郎さんの二人だけでした。
佐平さんには相続税が課税されるほどの多額の遺産はありませんでしたが、佐平さんが住んでいた一戸建ての土地建物、預貯金などがありました。
しかし、佐平さんの死後半年たっても、まだ兄弟の間で遺産の分割についての話し合いがまとまっていないのでした。
話は佐平さんの49日の法要が終わった後の兄弟での話し合いに遡ります。
その日、佐平さんの49日の法要も終わり、兄弟の実家である佐平さんが住んでいた自宅に兄弟とその家族たちも集まっていました。太郎さんは家族と一緒に佐平さんと同居していましたが、次郎さんは佐平さんとは同居しておらず、別に別に家を構えて独立していましたので、実家で兄弟が顔を合わせるのは久しぶりでした。兄弟仲は特に悪くはないのですが、深く何かを話し合ったということもここ近年はなかったようです。
太郎さん

「久しぶりだなあ、次郎。最後に遭ったのは、母さんの法要の時だったかな。」

次郎さん

「ああ、久しぶりだな、兄さん。お母さんの法事の時からもうそんなに経つのかな。父さんもあっという間に死んでしまったからなあ。」

しばらくの間、兄弟で亡き父母の話に花が咲いた後、父佐平さんの遺産の話になりました。
太郎さん

「ところで、今日は、ほかでもない、父親の残した遺産のことで話し合いたいんだが」

次郎さん

「いやあ、兄さん、そろそろその話をしなくちゃいけないなと思っていたんだよ。」

太郎さん

「うん、それで、調べた範囲でのお父さんの遺産の内容だが、、」

 ここで、太郎さんは用意してきたペーパーを次郎さんに渡して佐平さんの遺産の内容を説明し始めました。
 それらよると、佐平さんの遺産の内容はおおよそ次のようなものでした。
 ・自宅の土地建物(全部佐平さんの名義)
 ・五菱銀行の預金 1000万円
 ・むずほ銀行の預金 1000万円
 ・おおぞら信用金庫の預金 500万円

 次郎さんは太郎さんから渡されたペーパーを見ていましたが、生前、佐平さんが七井銀行との付き合いがあって預金をもっていたということを思い出しました。
次郎さん

「あれっ?お父さんは、七井銀行にも預金があったと言っていたと思うんだけど」

太郎さん

「えっ!?いやあ、知らないなあ。」

次郎さん

「お父さんが生前、七井銀行と付き合いがあって定期を組んだとか言っていたのを思い出したんだけど」

太郎さん

「いや、分からないなあ」

次郎さん

「そうかい」

 ここで、次郎さんは、ふと、佐平さんが掛けていた生命保険のことを思いだしました。
次郎さん

「そういえば、兄さん。お父さんがかけていた生命保険はどうなったのかな?」

太郎さん

「生命保険?ああ、保険金500万円のものが一本あったよ」

次郎さん

「それはどうなったの?」

太郎さん

「それはお前には関係ないだろう。」

次郎さん

「なんでだよ!?保険金だって遺産のうちだろう」

太郎さん

「保険金は、葬儀やなんやかんやで使ってしまったんだよ」

次郎さん

「そんな!今回の葬儀に500万円はかからないだろう。香典はどうしたんだよ!?」

太郎さん

「香典!?香典は喪主である俺のものだろうが。」

 お互い、法事後の酒が回ったせいもあって言葉づかいも荒くなってきています。双方の奥さんが止めに入ったので、お互い少し冷静になりました。
次郎さん

「兄さん、そもそもお父さんには遺言はなかったのかい?」

太郎さん

「遺言?そんなものは見つからなかったよ。こんなことなら生前無理やりにでも書いておいてもらえばよかったなあ。」

次郎さん

「なんだって?」

太郎さん

「次郎さあ、あんまり言いたかないんだけど、生前、お父さんのところに少しでも顔出してたか?」

次郎さん

「盆暮れくらいには顔を出してたじゃないか。そりゃまあ、仕事で忙しくて、日ごろの面倒見は兄さんのところにお願いしてしまったのは悪かったがね」

太郎さん

「そうか?お父さんは生前、お前のところがとっとも顔を出さないって言ってたぞ。そんなに遠くに住んでいたわけでもあるまい」

次郎さんは言葉をぐっと飲み込みました。生前、佐平さんは次郎さんに「太郎の嫁がいつもイライラしていて家にいずらい」と言っていたのを思い出したのです。ただ、このことを言ってしまうと太郎さんとの関係が一気に悪くなってしまうと思い言葉を慎んだのでした。
次郎さんが黙っているのを見て、太郎さんが言葉をつづけました。
太郎さん

「次郎、それで、土地建物や銀行の手続をするのにも遺産分割協議書という書類が必要なんだそうだ。それで、こちらの方で作っておいたんだが。」

太郎さんが差し出したのは2通の「遺産分割協議書」という書類でした。
次郎さんが目を通すと、遺産分割協議の内容として、土地建物はすべて太郎さんが相続すること、預貯金のうち五菱銀行とむずほ銀行の預金合計2000万円は太郎さんが相続するとなっていて、次郎さんが相続するのは大空信金の500万円KNということになっていました。

次郎さんはびっくりするとともにとても腹が立ってきました。というのも、実は四朗さんは、自営で電気販売店をしているのですが、ここ最近は売り上げも悪く、今回の佐平さんの相続で入ってくるお金をアテにしていたというところもあったのです。
次郎さん

「ちょっと待ってくれ。不動産前部と預金2000万円を兄さんかせ相続するというのじゃ、ちょっとムシがよすぎやしないかい」

太郎さん

「いや、もともと、お前には相続放棄してもらって、はんこ代程度で済まそうとも思っていたんだが、それじゃああんまりなので、おおぞら信金の500万円は次郎に相続させようと考えなおしたんだが。」

次郎さん

「あたりまえじゃないか!こんなのは納得ができない」

太郎さん

「しかし、長年お父さんの面倒をみてきたのはうちなんだぞ」

とうとう、兄弟での喧嘩が始まってしまいました。次郎さんも生前佐平さんから聞いていたことを口にしてしまいました。こうなると、双方の奥さんも気分がよくありません。
この日は「とにかくまた話し合あう」ということで双方別れたのですが、その後、太郎さんと次郎さんは会っていません。お互い、顔を合わせるのも嫌な気分になってしまい、メールや手紙でのやり取りということになってしまったのでした。

猫神家の相続トラブル その2−準備中