※設例は、あくまでも公開された裁判例などをもとにした仮定のものであり、登場人物や事件の内容は、実際の事件とは一切関係ありません。
また、実際の相談が必ずこのように進むというわけでもありません。
相談を初めてしようと思っている方などに対して、あくまでも、弁護士がどんなことを尋ねるのかとなどについてイメージとしてお伝えしているものです。

※内容は、不定期・随時に更新しています。


里見豊さんの建物明渡し〜その3

半蔵弁護士が送った内容証明はきちとん北条一郎のもとに配達されましたが,支払を求めたお金の入金はなく,北条から半蔵弁護士に対して連絡もありませんでした。そこで,半蔵弁護士は,里見さんから委任を受けて,北条一郎に対して未払賃料の支払と建物明渡を求めて,訴訟提起しました。訴訟提起から約1か月後,第一回期日が開かれました。
裁判官

「それでは,審理を始めます。被告の北条一郎さんは来ていないようですね。」

半蔵弁護士

「はい。」

裁判官

「それでは,原告(里見さん)は訴状のとおり陳述しますね?」

半蔵弁護士

「はい。」

裁判官

「被告(北条一郎)は答弁書も提出していないので,判決とします。判決言渡しの期日は・・・・」

結局,北条一郎は裁判の期日にも欠席し,約1週間後,北条一郎に対し,未払賃料の支払と建物の明渡を命じる判決が言い渡されました。半蔵弁護士は,改めて里見さんと打ち合わせることとしました。
里見さん

「今後は,どのようになるのでしょう?」

半蔵弁護士

「北条に対して部屋の明渡を命じる判決が出ましたが,北条が任意に出ていく可能性は薄いので,執行官に対して,強制執行の申立てをしたいと思います。」

里見さん

「スケジュールとしてはどんな感じですか?」

半蔵弁護士

「はい,執行官に強制執行の申立てをして1~2週間位の間に,私と執行官,それに実際に執行を担当する撤去業者,鍵屋などと共に,北条の部屋に行きます」

里見さん

「それは,強制的に入れるのですか?」

半蔵弁護士

「はい,そのために普通は鍵屋を同行させます,鍵がかかっていて中に入れないときは,鍵屋に明けてもらって入ります。」

里見さん

「それから,どうなるのですか?」

半蔵弁護士

「部屋に北条がいれば,執行官は任意に部屋を明け渡すように説得し,1か月の期限の猶予を与えます。」

里見さん

「その日のうちに追いだしては貰えないのですか?」

半蔵弁護士

「はい,通常,1か月の明渡猶予期限を与えて,それでも明け渡さないときにいよいよ強制執行ということになるのが実務です。」

里見さん

「それで,その鍵屋や業者に支払う費用というのは幾らくらいかかるのでしょうか?」

半蔵弁護士

「業者によっても違うのですが,鍵屋の費用は同行の日当で2~3万円,実際に鍵を開けてもらうと1~2万円加算という感じです。また,撤去業者については,内部の残置物の分量にもよるのですが,私の良く使う業者だと,経験上は,今回の間取りで北条は一人暮らしということですので,30万円位かなあと思うのですが。それと,撤去した後,1か月ほど,持ちだした残置物を倉庫でほかして,北条が引き取りに来ない場合にようやく廃棄するという流れになるので,倉庫費用と廃棄費用も掛かってしまいます。」

里見さん

「はあ,まったく酷い話ですよ。賃料は貰えないうえに,やつの不用品の後始末までこちらでするなんて。。。でも,仕方ありません,強制執行の方向で早く進めてください。」

それから,半蔵弁護士は裁判所の執行官に対して,北条の部屋の明渡と未払賃料についての動産差押の強制執行を申し立てました。半蔵弁護士が別の件で知り合った撤去業者の大森さんを連れて,執行官と打合せをします。担当の執行官は足利執行官です。
足利執行官

「このたびは宜しくお願いします。さて,一度,本件債務者の北条一郎のもとに任意の催告に行くのですが,その日取りは・・・・」

半蔵弁護士

「なるべく早く,来週あたりでお願いしたいのですが。」

足利執行官

「ええっと,来週だと・・・・水曜日の午前中はどうですか?」

半蔵弁護士

「うーん,その日は一日出張なので,火曜日はどうでしょうか?」

足利執行官

「その日は別件の執行が入ってしまっていて・・・・それでは,木曜日の午後はどうですか?」

半蔵弁護士

「ああ,それなら大丈夫です。大森さんは大丈夫ですか?」

大森さん(撤去業者)

「はい 大丈夫です。鍵屋も手配しておきます」

こうして,執行官と共に北条の部屋を訪ねる日取りが決まりました。
当日,関係者は現地で待ち合わせ,足利執行官が到着するのを待って,足利執行官と共に,北条の部屋にぞろぞろと向かいました。北条の部屋の前に建つと,足利執行官が呼び鈴を押します。しかし,だれも出てきません。足利執行官が,ドアをノックします。すると,中から中年の男がドアを開けました。
北条一郎

「はい。」

足利執行官

「北条一郎さんですね?」

足利執行官が身分証を提示しながら,自分が裁判所の執行官であることを告げます。男,観念したように軽くうなずいて自分が北条一郎であることを認めました。
足利執行官

「では,ちょっと中を確認させてもらいますよ」

足利執行官を先頭に,全員が靴を脱いだ部屋の中に入ります。誰かが小声で「うわあ」と声をあげました。1LDKの部屋の中は,物凄いにもつで溢れかえっています。仏壇も置いてありました。
足利執行官

「ええっとね,じゃあ,いまから,こちらの撤去業者の大森さんという方に中の物を確認してもらいますからね。」

北条一郎

「はい。」

大森さんと社員が部屋の中の物の量などを確認している間に,足利執行官が北条一郎に対して説明を始めました。
足利執行官

「裁判が起こされて,この部屋を明け渡すようにという判決が出ているのは分かっていますね?」

北条一郎

「はい。」

足利執行官

「それで,強制執行が申し立てられて,今日,私たちが来たわけなんだけれども,今日今すぐに荷物を運び出して出て行ってもらうということまではしません。」

北条一郎

「はい。」

足利執行官

「ただ,いつまでも待つというわけにはゆかないから,今日から1か月以内にあなたがここを出て行ってくれればよいのだけれども,そうでない場合には,指定した日時に強制的に荷物を運び出して大挙して頂くということになります。」

北条一郎

「はい。」

それから,足利執行官は,半蔵弁護士と大森さんと協議の上,強制執行の日時を決定し,その日時までに任意に部屋を明け渡さなければ強制執行すると告げました。そして,その旨が記載された告知書を,部屋の柱のところに貼り付けました。それから,半蔵弁護士,北条一郎らは,執行調書という書面に署名押印して,今日のところは,その場を出て解散しました。
半蔵弁護士

「それじゃあ,大森さん,見積もった金額を後で連絡してください。」

大森さん(撤去業者)

「分かりました。」

半蔵弁護士には,北条には引っ越し費用もないだろうから,任意に明け渡すとは考えられませんでした。裁判にも対応しなかった理由はよく分かりませんが,今日見た感じでは,どこか投げやりになっているようなところがあり,いつかこの日か来ることは覚悟していたのかもしれません。

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