※設例は、あくまでも公開された裁判例などをもとにした仮定のものであり、登場人物や事件の内容は、実際の事件とは一切関係ありません。
また、実際の相談が必ずこのように進むというわけでもありません。
相談を初めてしようと思っている方などに対して、あくまでも、弁護士がどんなことを尋ねるのかとなどについてイメージとしてお伝えしているものです。

※内容は、不定期・随時に更新しています。


西郷守孝さんの民事保全〜その2

半蔵弁護士

「大久保工業との取引は長いのですか?」

西郷社長

「そうですね,受発注は不定期ですが,10年くらいは付き合いがあります。」

半蔵弁護士

「大久保工業はどのくらいの規模の会社なのでしょう?」

西郷社長

「うちよりも規模は大きいですよ。資本金はうちが3000万円なのに対して,大久保工業は5000万円,従業員もうちのよりも多く直接の社員だけで50人くらいはいる筈です。だから頭にくるっていうんですよ。うちよりも大きな会社なのに,工事が終わったとたんに払い渋るようなセコイ真似して。」

半蔵弁護士

「大久保工業との間に今回のようなトラブルは以前にも会ったのでしょうか?」

西郷社長

「ええ,もともと支払いには渋い会社で,似たようなことはありましたよ。値切られたりね。」

川路さん

「だから社長は甘いっていうんです。私は大久保工業との取引はもうしないようにって言っていたのに。」

西郷社長

「うーん,売上欲しさについつい受けてしまうんでよね。」

半蔵弁護士

「大久保工業は本店以外には営業所はあるんでしょうか?」

大山さん

「はい。東京の本店の外には千葉と埼玉にも支店があります。大久保工業の名刺に書いてありましたから」

半蔵弁護士

「本店や営業所は大久保工業の自社保有でしょうか?」

大山さん

「本店については自社所有のようです。半蔵弁護士に指示された通り不動産謄本を調べてみましたので。千葉と埼玉と営業所については,ちょっと分かりませんでした。」

大山さんが取得した大久保工業の本店が所在する不動産については現在事項証明書を見ると,自社所有の土地建物になっています。但し,金融機関からの借入があるらしく,1億円近い根抵当権が付いていました。
半蔵弁護士

「ご苦労様でした。営業所の方は私の方で調べてみましょう。ところで,大久保工業の取引金融機関は,こちらの謄本にも出ていますが,小松信用金庫のようですね。」

川路さん

「はい。当社に振り込まれた分について,当社の取引銀行に調べてもらったところ,小松信金から送金されていたということでした。」

半蔵弁護士

「大久保工業の工事で売掛先が確かな所というのは分かりませんか?」

大山さん

「それでしたら,公共事業があります。大久保工業は,公共事業もやっているんです。今日は資料をお持ちしませんでしたが,いまも手持ちで持っている筈です」

西郷社長

「下請け泣かせておいて,公共事業とは泣かせるね。」

半蔵弁護士

「その公共事業の詳細な情報というのは分かりますか?例えば,発注先,発注金額,工事場所などです。」

大山さん

「はい,情報公開されていますのですぐに分かります。」

半蔵弁護士

「それで,大久保工業の経営状況というのはどんなものなのでしょうか?」

西郷社長

「うーん,それは正直,外部の私らではよく分からないというところです。ただ,他にも下請け泣かせているという話も聞くし,楽ではないと思うんですがね。」

半蔵弁護士

「もう少し色々と調べたうえでですが,お伺いしたところでは,その公共工事の売掛金に対して仮差押えを掛けるというのが,良いかもしれませんね。」

西郷社長

「仮差押えですか?それはどういうものですか?」

半蔵弁護士

「本来,相手方の銀行預金や工事代金などの資産に対しては民事訴訟で勝ってからでないと執行することができないのが原則なのですが,それを待っていたのでは相手方の資産が散逸してしまうという恐れがある場合に,仮差押えという手段を取って相手方の資産をしまうことができるんです。」

西郷社長

「いいや,それはいい!ぜひお願いします!」

半蔵弁護士

「まあまあ,慌てないでください。あくまでも仮に差し押えるというものですし,仮差押えは原則として相手方からの反論の機会を与えることなく行うものですから,間違いがあった葉いけないのです。相手方にとっては取引先からの信用を失うなどの大打撃になる恐れもあるので,原則として不動産に対してしなければならず,預金や売掛先に仮差押えが可能なのは,不動産に担保余力がない場合ということになっているので,色々と調べることが必要なのです。社長だって,いきなり,取引銀行や売掛先に,仮差押えを掛けられたら困るでしょう。」

西郷社長

「いえいえ,ぜひやってください!」

川路さん

「社長,慌てないで,半蔵弁護士さんの言うことをよく聞いてください!」

半蔵弁護士

「それと,仮差押えでは,担保として一定のお金を供託することが必要です。あくまでも仮に差し押さえるというものですので,相手方が蒙りかねない損害に対する担保という意味合いになります」

川路さん

「それはどれくらいかかるのでしょう?」

半蔵弁護士

「今回申立ようとする裁判所の場合,債権額の2割相当額が基準になります」

川路さん

「そうすると,今回の場合は500万円の2割だから100万円ですね?」

半蔵弁護士

「そうなります。」

川路さん

「それはいつ頃戻ってくるのでしょう?」

半蔵弁護士

「これはあくまでも相手方が仮差押えによって蒙りかねない損害に対する引当としての担保ですから,例えば,今回の仮差押えが不当だなどと言って相手方が訴訟するなどしてきた場合にはその決着によっては戻ってこないということもあり得る性質のものですが,仮差押え後に相手方と和解して担保の取戻しに同意してもらうなどすれば早く戻ってくるということもあります。だから,あまり時期的なことは申し上げられないのです」

西郷社長

「分かりました。私には今回の件で,私たちが負けるということはどうにも考えられない。いえいえ,半蔵弁護士さんに保証しろなんて言っているんじゃありませんよ。でも,こっちには支払わないで,自分たちはぬくぬく公共事業を請け負っているというのはどうにも納得ができません。訴訟が終わるまでに大久保工業が倒産するっていう可能性だったあるんだから,私は仮差押えを方法を望みます。」

川路さん

「そうですね。」

西郷社長

「それで,どんな調査をすればいいんですか?」

半蔵弁護士は,西郷社長たちに必要な調査事項を指示し,半蔵弁護士自らも必要な書類の収集などを行うこととしました。

→西郷守孝さんの民事保全 その1 →西郷守孝さんの民事保全 その3 →西郷守孝さんの民事保全 その4