※設例は、あくまでも公開された裁判例などをもとにした仮定のものであり、登場人物や事件の内容は、実際の事件とは一切関係ありません。
また、実際の相談が必ずこのように進むというわけでもありません。
相談を初めてしようと思っている方などに対して、あくまでも、弁護士がどんなことを尋ねるのかとなどについてイメージとしてお伝えしているものです。

※内容は、不定期・随時に更新しています。


西郷守孝さんの民事保全〜その1

西郷守孝さんはとても怒っていました。西郷さんは、都内での工事会社有限会社西郷舗装を経営している社長なのですが、取引先の大久保道俊が経営する会社から請け負った工事の代金が支払われず、今日も西郷社長が大久保社長の下を直接訪れて代金の支払いを求めたのに、大久保社長は「ちょっと、待ってほしい。これまでの工事ではきちんと支払ってきたのだし、あまりきついこといわないでよ」などと言うのです。  西郷社長の会社もそれほど景気が良いわけではなく、従業員への支払いなどに毎月頭を悩ませているのが実情です。  西郷社長が何より頭にきているのが、大久保社長が西郷社長の会社への支払いはしていないのに、平然と営業を続けていて、他の取引先などには支払っていると聞いたからです。  西郷社長は、なんとかならないものかと、工事を担当した営業の大山岩男さんと経理の川路敏子さんを連れて、よく相談に訪れている半蔵弁護士の下を訪ねました。
西郷社長が半蔵弁護士の事務所を訪ねてきました。ずいぶんと恰幅の良い体格です。経理の川路さんという中年の女性には半蔵弁護士も何度かあったことがあり、西郷社長が答えられない細かい経理に関する質問にも答えてくれます。半蔵弁護士が営業の大山さんと会うのは初めてでした。
西郷社長

「このたびはお世話になります。このたび、工事をした請負代金を支払わない会社があって困っているのです。」

半蔵弁護士

「こちらこそお世話になります。相手の会社は、大久保工業株式会社ということでしたね。それで、大久保工業から請け負った工事の請負代金が支払われないということですが、今回トラブルになっている工事はどんな内容だったのでしょうか?」

西郷社長

「はい、その点については、事前にご連絡頂いた通り資料を持参しました。」

 西郷社長が持参した資料をカバンの中から取りざして資料を取りだして半蔵弁護士に渡しました。
 半蔵弁護士はまず「工事請負契約書」に目を通しました。
半蔵弁護士

「これは、西郷舗装と大久保工業との間の契約書ですね。ええっと、平成22年5月1日付ですね。工事の内容は、東京都千代田区内の駐車場の舗装で、発注者は民間企業になっていますね。」

 工事を担当した営業の大山さんが答えます。
大山さん

「はい、請負契約書にも書いてありますが、工期は平成22年5月15日から8月31までの約3ヵ月間、請負代金は総額で1200万円です。少し特殊の舗装ということもあって相場よりも高めになっています。」

半蔵弁護士

「1200万円の支払い方法はどうなっていましたか?」

大山さん

「はい、これも契約書に記載のある通り契約時に300万円、あとは完成時に残金支払いということになっていました。」

半蔵弁護士

「現時点で支払われていない代金はいくらでしょうか?」

川路さん

「はい、それは、経理の私からご説明します。契約時の300万円については約束通り契約時に支払われました。支払われていないのは、残りの900万円のうちの500万円になります。」

半蔵弁護士

「残金900万円のうちの400万円は支払われたのですか?」

川路さん

「はい、請負契約書にも記載がある通り、完成時の900万円は、引渡後1カ月以後に支払うということになっていましたので、今回の場合は平成22年9月末が支払期限でしたが、大久保工業から支払われたのはその際の200万円だけで、その後は200万円が支払われたのみとなっています。」

半蔵弁護士

「400万円しか支払わない理由について、大久保工業はどのように言っているのですか?」

西郷社長

「それが、本当にふざけた話で、私が大久保社長に問い合わせたところはじめは手違いだとかナントカ言っていたのですが、『実は、別の今回とは別の工事でトラブルがあってその補償をせざるを得なくなり、今回の件の発注者からの支払いをそちらに宛ててしまった。本当にすまないが少しだけ待ってもらえないでしょうか?」

半蔵弁護士

「それは、本当の話なのでしょうか?」

西郷社長

「一応、どこの工事かと聞いたところ、千葉の方の工事だとか言っていましたが詳しくは分かりません」

 次に、半蔵弁護士は、「引渡確認書」という書面に目を落としました。
半蔵弁護士

「これは、去年の平成22年8月31日付のもので、西郷舗装がきちんと今回の工事をして大久保工業に引き渡したという内容のものですね。西郷舗装がした工事自体に大久保工業から『工事に問題がある』などのクレームはなかったですか?」

西郷社長

「それは全くありません。だからこそその引渡確認書も取り交わしています。」

 次に半蔵弁護士は、「覚書」という西郷舗装と大久保工業が取り交わした書面について質問しました。その覚書は平成22年11月20日付で大久保工業が西郷舗装に分割の支払いを約束するという内容でした。12月末に100万円、平成23年1月から平成24年9月末までに各月50万円、合計9回に分けて支払うという内容になっていました。  半蔵弁護士が尋ねたところ、これは、西郷社長が大久保社長に対して支払計画書を出すように求めたところ、初めは月10万円などと言っていたのを西郷社長が「それではだめだ」と言って押し返したりして、最終的に西郷社長も合意した覚書だということでした。  しかし、西郷社長によると、この覚書の約束すらも守られず、だらだらと分割金が200万円支払われて現在に至っているということでした。
  半蔵弁護士

「ええっと、今はもう平成23年の10月に入ってしまいましたが、今もって残りの分割金の支払いがされていないということなのですね?」

西郷社長

「はい、そうなのです。本来であれば昨月にすべての支払いが完了しているはずなのですが、、、それで、私の方からも請求の電話を入れたり、直接言ったりもしているのですが、『待ってくれ』というばかりでらちが明かないのです」

半蔵弁護士

「覚書の分割支払いの約束が守られていないようなのですが、その間は請求はしてなかったのですか?」

西郷社長

「はい、もちろん請求はしていたのですが、私もこの件ばかりに関わっているわけにもゆかないので、放っておいたりしたこともあって、今になってしまいました。」

川路さん

「社長、だから、私は早く半蔵弁護士に相談してほしいって何度も要っていたじゃありませんか!」

西郷社長

「う〜ん、それは私もそうは思っていたんだが。。ちょうど、私の郷里の鹿児島で知人の結婚式があったりしたもんだから・・」

川路さん

「結婚式なんて関係ありませんヨ!あんなにお酒を飲む暇があったら・・・」

西郷社長

「いやあ・・」

半蔵弁護士

「ま、まあまあ。それはそれとして、大久保工業のことについて伺いましょうかね。」

どうやら、西郷社長も川路さんにはタジタジのようです。何とか川路さんをなだめると、半蔵弁護士は大久保工業の状況について聞いていきました)

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