※設例は、あくまでも公開された裁判例などをもとにした仮定のものであり、登場人物や事件の内容は、実際の事件とは一切関係ありません。
また、実際の相談が必ずこのように進むというわけでもありません。
相談を初めてしようと思っている方などに対して、あくまでも、弁護士がどんなことを尋ねるのかとなどについてイメージとしてお伝えしているものです。

※内容は、不定期・随時に更新しています。


西郷守孝さんの民事保全〜その3

その後,西郷社長たちからは,大久保工業が他の取引先に対する支払いについても渋っているという情報の収集や,大久保工業が手掛けている公共事業の詳細な情報などについて詩背べてもらいました。 半蔵弁護士は,大久保工業の千葉と埼玉の営業所を調べたところ,営業所については大久保所有の所有ではないことが分かりました。また,大久保工業の本店について,地元の役所から固定資産評価証明書を取り寄せたところ,土地建物合わせても,約1億円の根抵当権には及ばないオーバーローンであることが分かりました。 半蔵弁護士は,諸般の事情を考慮して,大久保工業が請け負っている公共事業の売掛金に対する仮差押えを行うこととし,資料を準備して,仮差押えの申立てを行うこととしました。
半蔵弁護士は,集めた資料を手際よく整えたうえで,裁判所の保全部に対し,仮差押えの申立を行いました。半蔵弁護士が申し立てた裁判所の保全部では,原則として,申立代理人である弁護士と担当裁判官が面接をすることになっています。 半蔵弁護士は申立書類を提出した後,担当書記官と面接の日時について調整し,申し立てた日の午後に面接してもらうこととしました。
半蔵弁護士が面接の時間に再び裁判所を訪れ,控室で待っていると,裁判官から呼び出しがありました。 半蔵弁護士は,裁判官室に入り,担当の裁判官の前の椅子に座ります。
裁判官

「担当裁判官の東郷です。それでは,提出頂いた書類の原本を提示してください。」

半蔵弁護士

「はい。」

民事保全手続きでは,提出した書類の原本すべてについて,直接裁判官かが必ず確認します。半蔵弁護士は,書類の提示がしやすいように,クリアフィルに一つ一つの書類の原本を入れて聞いており,これを裁判官に渡しました。
裁判官

「ええっと,これが本件業務請負の契約書ですね。」

半蔵弁護士

「はい。」

裁判官

「ええっと,次に,これが引渡確認書で・・・」

半蔵弁護士

「はい。」

裁判官

「これが,分割支払いの覚書・・・」

半蔵弁護士

「はい。」

裁判官が一つ一つの書類の原本を丁寧に確認します。
裁判官は書類の原本の確認を終えると,いくつか半蔵弁護士に質問をしましたので,半蔵弁護士はこれらに応えました。
裁判官

「分かりました。それでは,仮差押えの決定をしたいと思いますが,担保金は100万円で宜しいですね?」

半蔵弁護士

「はい,既に準備しています」

裁判官

「分かりました。それでは,今日から7日以内に供託するようにしてください。」

裁判官との面接を終えると,半蔵弁護士は西郷社長に電話で報告すると,既に西郷社長から預かっていた100万円を法務局に供託しました。
供託を済ませた翌日朝一番に,半蔵弁護士は,法務局から発行された供託書の原本を持参して裁判所に向かいました。供託書の原本を提示することにより,裁判所は担保金の供託がされたことを確認し,仮差押命令を発令します。
その後,半蔵弁護士は西郷社長に電話で報告をしました。
半蔵弁護士

「社長,無事に裁判所の手続も済みました。」

西郷社長

「いやあ,有り難うございました。」

半蔵弁護士

「仮差押え命令は,今日の午後に発令され,郵送されることになっています。明日中には,仮差押命令が売掛先の自治体に到着するでしょう。」

西郷社長

「明日か。大久保さん,びっくりするだろうな。うちのこと甘く見てる感じだったから。そのあとはどういう流れになるのでしょうか。」

半蔵弁護士

「暫くすると売掛先の自治体から差し押さえた債権の存否などについて回答が来ることになっています。」

西郷社長

「なるほど。」

半蔵弁護士

「ただ,それよりも大久保工業がどう対応してくるかのほうが重要です」

西郷社長

「というと?」

半蔵弁護士

「大久保工業から反応が無かったり争ってくるようであれば,当方としては粛々と本訴訟するしかありません。」

「ただ,大久保工業としても争う意味がなく,仮差押えを早く解いてもらいたいと思えば,和解の申出がされることもあります」,半蔵弁護士はそう付け加えました。

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