※設例は、あくまでも公開された裁判例などをもとにした仮定のものであり、登場人物や事件の内容は、実際の事件とは一切関係ありません。
また、実際の相談が必ずこのように進むというわけでもありません。
相談を初めてしようと思っている方などに対して、あくまでも、弁護士がどんなことを尋ねるのかとなどについてイメージとしてお伝えしているものです。

※内容は、不定期・随時に更新しています。


上杉商店の破産 その3

半蔵弁護士は,上杉社長に「債権者一覧表」(債権者の氏名,住所,債権額などか記載されているもの),売掛先の情報が分かる一覧表や在庫の内容が分かる資料などのほか,上杉社長個人の「債権者一覧表」,生命保険や自動車などの資産の資料などの準備を指示しました。 10月26日,上杉社長がそれらの資料を持って打合せのため半蔵弁護士の事務所を訪れました。
半蔵弁護士

「昨日10月25日は,信濃商会からの入金日でしたね?いかがでしたか,きちんと入金されていましたか?」

上杉社長

「はい,五菱銀行にきちんと入金されていました。」

半蔵弁護士

「その他の売掛の入金状況は如何でしょうか?」

上杉社長

「はい,その他の売掛金の入金もきちんとされていました。」

半蔵弁護士

「売掛金はきちんと引き出すことが出来ましたか?」

上杉社長

「はい,大丈夫でした。窓口に引き出しに行ったときはドキドキしましたが,特に何も言われませんでした。」

半蔵弁護士は(よかった)とホッと胸をなでおろしました。
上杉社長

「それで,この800万円で従業員の給料は支払ってやりたいと思うのですが。」

半蔵弁護士

「そうですね。」

従業員の未払の給料は約500万円残っていました。今回800万円の入金があったことでその中から支払っても300万円ほど残る計算になります。ただ,解雇予告手当までを考えると,その分を含めた全額までを支払うことはできませんが,今回支払う分の中に解雇予告手当分を含めて,一部の給料を未払とすれば,労働者健康福祉機構による賃金立替払制度の利用によって支払金額は上積みすることが出来そうです。
上杉社長

「賃金立替払いというのはどういう制度ですか?」

半蔵弁護士

「支払額の上限は決まっているのですが,未払賃金や退職金のの80パーセントまでは立て替えて支払ったてくれるという公的な制度です。」

上杉社長

「雇用保険料を滞納してしまっているのですが大丈夫でしょうか?」

半蔵弁護士

「はい,大丈夫です。ただ,解雇予告手当は立替払いの対象外ですので,今回支払うお金のうち一部は解雇予告手当に充当しましょう。賃金は一部未払になってしまいますが,その分は立替払制度を使うことで,総額として上積みさせて頂くことで従業員の方には納得してもらうことにしましょう。」

上杉社長

「分かりました。」

その後,半蔵弁護士と上杉社長は夜遅くまでかかって破産のための書類の準備を行いました。
翌10月27日の夜,半蔵弁護士と上杉社長は会社に従業員集めて,開始矢野経営状況を説明し,解雇通知書と離職票を交付し本日をもって解雇するということを告げました。従業員は,破産のことは初めて知らされたためびっくりしていましたが,未払賃金と解雇予告手当の一部をその場で支払うこと,残額については立て替え払い制度を利用することにより支払いたいことなどを説明すると,納得してくれました。半蔵弁護士は,従業員から健康保険証を回収し,家族の分などについては後で郵送してくれるように従業員に頼みました。 従業員に対する説明を終えた後,半蔵弁護士は「上杉商店は破産申立てをしたため,社内に入ることはできません。」という旨の張り紙を会社の正面の入口に張り付けて,その場を後にしました。
翌10月28日,半蔵弁護士は準備した上杉商店と上杉社長個人の破産申立ての書類を持参して,裁判所の破産部を訪れました。半蔵弁護士が申し立てた裁判所では,その日のうちに担当の裁判官と面接をする決まりになっています。
裁判官

「はい,提出された上杉商店の破産記録を拝見しました。負債総額は従業員の労働債権も併せて約1億円くらいということですね?」

半蔵弁護士

「はいそうです。」

裁判官

「負債の原因はどのようなことか?」

半蔵弁護士

「はい,売上の減少が続いていたのですが,従業員の整理などのスリム化を打つことなくそのままの規模で事業を続けるうち,運転資金の借入れなどにより負債が膨れていったというところです」

裁判官

「資産としては売掛金と在庫ということですね?」

半蔵弁護士

「はい,そうです。」

裁判官

「売掛金の回収見込みはどうでしょうか?」

半蔵弁護士

「はい,11月末の入金予定の約100万円については問題なく入金されるはずです。」

裁判官

「破産管財人に引き継ぐことが出来る予納金はいくらでしょうか?」

半蔵弁護士は,10月末に回収した800万円の売掛金のうち500万円を従業員の労働債権の支払いに充てたこと,残金のうち半蔵弁護士の費用を差し引いた金額について破産管財人に対して引き継ぐことを説明しました。
裁判官

「従業員は全員解雇済みですか?」

半蔵弁護士

「はい,昨日付て解雇してあります。」

裁判官

「会社の事務所は賃借のようですが,明渡は未了ですか?」

半蔵弁護士

「はい,私名義の立ち入り禁止の張り紙はしておきました。」

裁判官

「リース物件の返還の作業などもありますか?」

半蔵弁護士

「はい,リース物件については一覧表にまとめてあります。」

裁判官

「破産手続きの開始決定についてはいつ頃が宜しいのでしょうか?」

半蔵弁護士

「はい,出来れば本日付でお願いしたいと思います。」

破産手続開始決定がされると,その時点での破産者の資産が破産財団として破産管財人の管理下に入り,税金も含めてすべての債権者に優先することになります。上杉商店の場合,税金の滞納などがあり,破産手続き開始決定が遅れると,税金の差押などで11月末の売掛金が挿し押さえられたりする危険性があるため,資産保全のため本日付の破産手続き開始決定をしてほしい,と半蔵弁護士は説明し,裁判官も了解しました。
裁判官

「分かりました。それでは本日中に破産手続き開始決定を出しますので,破産管財人と早急に打合せするようにお願いします。」

半蔵弁護士

「はい,有り難うございます。」

それから,裁判官と半蔵弁護士の間で債権者集会の候補日時を3つほど決めました。 それから,半蔵弁護士が事務所に戻ると,その日のうちに,裁判所から第一回債権者集会の日時と破産管財人として武田弁護士が選任したと連絡がありました。 半蔵弁護士は,上杉社長と一緒に武田弁護士の事務所を訪ねて,事情を説明することとなりました。

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