※設例は、あくまでも公開された裁判例などをもとにした仮定のものであり、登場人物や事件の内容は、実際の事件とは一切関係ありません。
また、実際の相談が必ずこのように進むというわけでもありません。
相談を初めてしようと思っている方などに対して、あくまでも、弁護士がどんなことを尋ねるのかとなどについてイメージとしてお伝えしているものです。

※内容は、不定期・随時に更新しています。


上杉商店の破産 その4

半蔵弁護士と上杉社長は,裁判所から破産管財人に選任された武田弁護士の事務所を訪ね,事情を説明することになりました。
武田弁護士

「どうも,初めまして。このたび,上杉商店と上杉社長個人の破産管財人に選任された弁護士の武田です。」

半蔵弁護士

「宜しくお願いします。」

上杉社長

「宜しくお願いします。」

まず,武田弁護士は,破産管財人の役割や破産手続の進行に当たっての注意事項を説明しました。
武田弁護士

「既に半蔵弁護士さんからも注意を受けているとは思いますが,今後,私が破産管財人として,上杉商店や上杉社長個人の資産や債務の調査に当たりますので,説明を求められたことについてはきちんと答えるようにお願いします。」

上杉社長

「はい。」

武田弁護士は,郵便物が少なくとも第一回債権者集会の日までは上杉商店と上杉社長宛ての郵便物が武田弁護士の事務所に転送されて開封されることや,上杉社長が転居する場合には許可が必要となることなど何点かの注意が与えられました。
武田弁護士

「さて,まず上杉商店の関係ですが,資産の売掛金についてですが,こちらからの請求の根拠となる契約書や注文書などの資料はありますか?」

半蔵弁護士

「はい,それは,私が事務所から引き揚げてきて保管しています。主なものについては,今日コピーをお持ちしました。」

武田弁護士

「そうですか,それでは,原本その他については改めて私の事務所に郵送するようお願いします。早速,私から改めて売掛先に対して請求書を送付して,支払については破産管財人の口座に送金してもらうようにしましょう。」

半蔵弁護士

「分かりました。」

武田弁護士

「幾分かの在庫があるようですが,これについては申立代理人の半蔵弁護士の方で見積はとられましたか?」

半蔵弁護士

「いえ,今回は申立の準備期間が短く,そこまでは手が回りませんでした。」

武田弁護士

「分かりました。上杉社長,決算書によるとその時点での在庫の価値として約200万円ほどの計上になっていますが,在庫の価値としてはどれくらいでしょうか?」

上杉社長

「半蔵弁護士さんにもお話ししたんですが,なかなか分からないところもありますが,50万円くらいではないかとは思うのですが・・・すみません,ちょっとよく分からないところです」

武田弁護士

「分かりました。上杉社長の方で在庫を高く買い取ってくれる先を見つけるということは可能でしょうか?」

上杉社長

「そうですね,知り合いの業者に声をかけてみることはできると思います」

武田弁護士

「それではお願いします。私の方でも,買取先がないかどうかを探してみることにします。」

武田弁護士

「ところで,この在庫が保管してある上杉商店の事務所ですが,ここは賃借物件でしたね?」

上杉社長

「はい,そうです。」

武田弁護士

「賃料の支払状況についてはどうなっていますか?」

上杉社長

「翌月前払いですが,今月11月分については未払になっています。」

武田弁護士

「保証金はどれくらい入れていたんでしたっけ?」

上杉社長

「300万円ほど入れてあったと思います。」

武田弁護士

「そうですか,なるべく保証金の範囲内で,できれば戻ってくるようにしたいので,早めに退去したいと思います。従業員の私物などについては残っていませんか?」

上杉社長

「はい,解雇した際にすべて引き揚げさせました。」

武田弁護士

「それと,リース物件も未返還でしたね?」

半蔵弁護士

「はい,そうです。リース物件の一覧表については準備してきました。」

上杉商店の事務所については武田弁護士の方で家主と交渉し,撤去業者を探して,なるべく早く撤去するということになりました。リース物件については誤って廃棄してはいけないので,今後,上杉社長も立ち会って物件を確認するということになりました。
武田弁護士

「従業員の関係ですが,全員解雇済みなのですね?」

上杉社長

「はい。」

武田弁護士

「離職票についても交付済ですか?」

上杉社長

「はい。」

従業員の関係の処理では,賃金の未払が若干残っていることや労働者健康福祉機構による賃金立替払いの利用を検討していることなどを半蔵弁護士から説明しました。
上杉商店の関係では,10月末の売掛金の入金と支払いについての状況の説明などを行い,その他いくつか武田弁護士から質問があり,半蔵弁護士たちは説明をしたり,すぐには分からないことについては後で調べて回答するということになりました。
武田弁護士

「それから,上杉社長個人の破産手続の関係に移りたいと思います。債権者一覧表によると,上杉商店の債務の連帯保証債務がほとんどですが,そのほかに,いくつか消費者金融からの債務がありますね?」

上杉社長

「はい,上杉商店の支払で足りないときは個人で借り入れて会社の資金繰りにカネを突っ込んでいました。」

武田弁護士

「分かりました。借り入れた期間が長い業者もありますので,過払金の返還についても受けられないか注意する必要がありそうです。」

武田弁護士

「それと,上杉社長の自宅のマンションですが,住宅ローンが付いていますね?」

上杉社長

「はい。」

上杉社長は,近郊都市部にマンションを保有しており,そこに奥さんと高校生になる子供と住んでいました。
上杉社長

「あのう,質問があるのですが?」

武田弁護士

「はい,なんでしょう?」

上杉社長

「破産手続きによってマンションが売却されてしまうということについては半蔵弁護士さんからも説明を受けて理解しています。次の住まいについても,親戚の援助で何とか見付けたいと思いますが,いつ頃までに出て行かなくてはならないものなのでしょうか?」

武田弁護士

「そうですね・・・」

武田弁護士は,破産管財人としてマンションを任意売却により売却することを考えているが,上杉社長のマンションは時価よりも住宅ローンの方が多いいわゆるオーバーローン物権であるため,売却には住宅ローン債権者である銀行の承諾が必要となること,銀行が承諾しない場合にはマンションについては任意売却をあきらめることになるので,その後は銀行による競売により処理されることなどを説明しました。 そして,上杉社長がいつ退去しなくてはならないかについては任意売却か競売かによっても違いがあるが,任意売却の場合には,少なくとも契約した1か月程度後には退去してもらうことになるだろうということを説明しました。
上杉社長

「分かりました。言われたらすぐに出られるように前倒しで準備しておきたいと思います。」

この日は,この程度で武田弁護士との打ち合わせを終えました。

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